ストーリー
老舗玩具メーカー「ほのぼの玩具」。
そこでコストを重視しつつ「ほのぼの玩具」らしい新商品の開発が決定。
企画の責任者として抜擢されたのは、北海道支店の利益率を全国支店トップにまで押し上げた男・飯塚紀之。
この物語は、新商品の取扱説明書制作をまかされた企画部員と彼の同期入社の仲間たちの奮闘と友情の物語。
会社への愛と商品への情熱とほんの少しのずる賢さが生み出した取扱説明書。
いったいどうやって作られたのか!
登場人物
- 営業部・青木(32)…青木清四郎
- 企画部・阿部(32)…阿部博明
- 総務部OL・倉地(32)…倉地裕衣
- 総務部OL・藤原(25)…藤原葉月
- 制作部長・飯塚(50)…飯塚シュウヘイ
- 社員エキストラ
#1 トリセツの品質とは
(おもちゃ会社の「ほのぼの玩具」休憩スペース。企画部の阿部が飯塚部長となにやら話している。「休憩中悪かった」などいいながら部長は去っていく。そこへ阿部の同期の青木が現れる。)
青木
部長直々に何の話?
阿部
新製品のマニュアルを企画部で制作することになったんだって。プロジェクトリーダーやれとさ。
青木
え、結構スケジュール的に厳しいね。どんなメンバーでやるつもり?
阿部
まだなんも考えられない。営業の美樹ちゃんようやく口説き落として、これから盛り上がる感じのタイミングなのに。来月、彼女誕生日なんだけどなー。
青木
だったら、外注しちゃったら。その方がクオリティー高いもん出来ると思うし、マニュアルのクオリティーがあがると顧客満足度あがるらしいよ。
阿部
へー。そうなんだ。でもなー、あの部長…。
(阿部は飯塚部長の赴任挨拶の会議を思い出す。)
#2 伝説のコストカッター
(回想シーン、「ほのぼの玩具」第3会議室。飯塚部長赴任最初の会議。飯塚が就任の挨拶をしている。)
飯塚
我が玩具業界は、ご承知の通り非常に厳しい状況です。その中でも会社を発展させるためには、単に売り上げを上げるだけではなく、利益率を上げていかなければなりません。利益率を上げるために有効なのは、当然、製作段階でのコストカットです。調達などの原料のコスト、加工段階でのコストカット、さらには、ロジスティックスでのコストカット。さらには原料も含めた在庫管理の徹底。それらをトータルで管理するサプライチェーンマネージメントの重要性が我が社でも盛んに議論されていますね。しかし、私はそれだけではダメだと考えているんです。私たち企画部門が、コストを考えた商品を企画開発すること。これが一番重要ではないか。そう思うんです。コストも含めた商品企画は、この業界で私たちの会社が生き残るための最高の武器となっていくと信じています。
(飯塚部長から一番離れた席で、OLたちがひそひそ話をしている。 その話に聞き耳を立てる阿部。)
OL1
飯塚部長って、北海道支店で利益率を劇的にあげて今回本社に呼ばれたらしいよ。
OL2
なんか見るからにケチくさそうだもんね。
OL1
徹底的にコストカットをやって、『伝説のコストカッター』って言われてたんだって。
OL2
『伝説のコストカッター』ってなにそれ、かっこ悪っ!
課長
そこ!私語は慎むように!
(OL肩をすくめる。その様子を見つめ、飯塚部長の顔を見る阿部。)
#3 トリセツを作るコスト
(休憩スペース。我に返る阿部。)
阿部
無理無理。コストをかけて外注なんて、部長に相談できないよ。何とかメンバーを集めて、社内で作るよ。絶対にその方が安上がりだし。
青木
そんな器用な奴、お前のところにいたっけ?
阿部
けっこうみんなプレゼン用のパワポとか、かっこいいの作ってるよ。
青木
……。プレゼン用のパワポがうまくつくれるからって、マニュアル作れるって思わない方がいいよ。
阿部
え、そうなの?
青木
マニュアルってさ、うちの会社にとって究極のコミュニケーションツールだって思うんだよね、俺は。その品質ってさ、あんまり甘く考えない方がいいと俺は思うけどな。マニュアルってけっこう、見えないノウハウがいっぱい詰まっているんだぜ。
阿部
いや、でもやっぱコストカットしないと…。
青木
プロジェクトメンバーってさ、通常業務免除されるの?
阿部
まさか。みんな今持ってる通常業務をやりながらの兼務だよ。
青木
それって、残業してやるってことだよね。
阿部
そう。あーだから美樹ちゃんとのデートがまともに出来無くなるんだよね。
青木
残業代ってさ、コストだよね?
阿部
あ、そうか。
青木
仮にマニュアルの出来が悪かったら、問い合わせ、増えちゃうよ。その時のコールセンターの対応費用だって、コストだよな。
阿部
確かに。
青木
ちゃんとしたノウハウを持ったプロフェッショナルに頼んで、クオリティーの高いマニュアル作った方が、最終的にはコストパフォーマンス良くなると思うよ。問い合わせとかもあるし、何より、残業しなきゃ、美樹ちゃんとのデートたくさん出来るじゃん。
阿部
デート。そうだな!
青木
食い付くとこ、そこかよ!
(そこに二人の同期、総務部の倉地が後輩の藤原とやってくる。)
倉地
なに?合コンの相談?
阿部
ちげーし。
倉地
せっかくつきあうのOKしてくれた、美樹ちゃん悲しむと思うけどな~。
阿部
だから、ちげーよ。ん、ってかてか、倉地なんで知ってるの?
倉地
女性のネットワーク、ナメちゃダメよ。
藤原
はい。
青木
それよりお前、この前の俺たちの合コンぶちこわしたの、許してないからな!
倉地
よりによって会社の近くのあの店でやってるのが悪いんじゃないの。
青木
だからって合コンわざわざ壊す必要ないだろ。
倉地
つきあう気はないんだけど、自分のクラスの男の子が他のクラスの女の子とつきあうって聞くと、なんか嫌な気分になったりしなかった?
藤原
それ、超分かります。
青木
……。(あきれてる)
倉地
合コンじゃなかったら、なんの話?
藤原
めずらしく、真剣な顔なさって話してました。
青木
さらっとひどいこと言うね。藤原ちゃん。実はさ…
(時間経過あって)
倉地
なるほどねー。マニュアルかー。
藤原
青木さんが言う、究極のコミュニケーションツールって言うの、すっごくわかります。この前買ったブルーレイの機械のマニュアルがすっごいわかりにくくて、もう絶対このメーカーのモノ買うの止めようって思っちゃいましたもん。
倉地
そういえばさ、うちの彼がさ…
青木
どの彼氏?
倉地
家電メーカーの。
青木
〝どの〞に引っかからないところとかね(笑)
倉地
うっせ!
藤原
先輩、そんなに彼氏…。
倉地
何っ?
藤原
いえ。
倉地
私の話、聞く気ある?
3人
あります!
倉地
なんでも、彼の会社の商品を使ってたお客様が怪我しちゃって、訴訟になってるらしいのよ。
阿部
なんで?
倉地
マニュアルの言い回しに、不備があったんだって。
阿部
え、そのせいで訴訟?
倉地
そう。怖いよね~。
青木
うちなんか子供相手の商品なんだから、そんなことあったら一発で吹っ飛んじゃうな~。
阿部
……。そういうリスクも、いわばコストだよな。なんかいろいろ考えたら、外注のほうが良い気がしてきた。
倉地
美樹ちゃんとのデート時間も取りやすいしね!
阿部
そうだよな!部長を説得する資料つくるから、青木、いろいろ手伝ってくれよ。あと、倉地も訴訟の話、もうちょっと詳しく聞かせて!
青木
生ビール飲み放題で手を打とう!
倉地
私も!
藤原
私も!
阿部
なんで、藤原ちゃんも?
藤原
美樹さんって、私の大学の先輩なんです!
阿部
うん、是非藤原ちゃんも!
藤原
やった!
阿部
それにしても青木、なんでそんなにマニュアルに詳しいの?
青木
それはさー…。
#4 外注でトリセツを作る
(「ほのぼの玩具」企画部長室。自分のデスクの椅子に座って、阿部が渡したタブレットを目で追ってる飯塚部長。ビクビクしながらも必死にプレゼンしている阿部。)
阿部
というわけで、マニュアルクオリティーの面、残業費やスタッフの業務効率の面、訴訟などのリスクに備えるという面も鑑みて、新商品のマニュアルは、マニュアルの専門会社、『ポラリスインフォテック』に外注したいと考えています。
(タブレットからゆっくり目を離し、一息を付く飯塚部長。)
飯塚
外注ですか…。
(ゆっくり阿部を見る飯塚部長。阿部の表情が凍る。)
#5 4ヵ月後
(「ほのぼの玩具」の廊下。廊下を並んで歩いている阿部と青木。)
青木
で、例のマニュアル、結局どうなったの?
阿部
それが意外な事にさ…
#6 品質とコストのバランス
(回想シーン、手前のテーブルに座っている2人。お茶を持ってきた秘書が去っていく。)
飯塚
コストはなにも、何も目に見えるモノだけじゃないんです。目に見える部分をカットしたからといって、良くなるとは限りませんからね。
阿部
はあ。
飯塚
それにしても、良くまとめられた資料でした。スタッフの残業代、問い合わせ対応の費用を、きちんとコストとして算出してあるのが素晴らしい。そして、訴訟リスクという点は、私は考えもしない点でしたね。それをふまえて、マニュアル制作のプロに委託をするというのは、とても良い判断だと思いました。
阿部
ありがとうございます。
飯塚
でも、実は私が一番気に入ってるのは、『マニュアルはお客様との究極のコミュニケーションツール。だからこそ、クオリティーが必要だ』っていうところなんですよ。
阿部
え?
飯塚
お客様に喜んでいただけなければ、いくらコストをカットして利益率を上げても意味がないんですよ。
阿部
はい。そうですね。
飯塚
外注の方向で進めてください。
#7 良いトリセツはファンを増やす
おもちゃ会社の「ほのぼの玩具」休憩スペース。阿部と青木が座って話している。
青木
コストをカットしてもお客様が喜ばなかったら意味がない・・・か。伝説のコストカッターがそんな話するなんて、確かに意外だな。
阿部
そうだろ。
青木
美樹ちゃん、元気?
阿部
おかげさまで!あんまり残業せずに済んだから、しっかり彼女の誕生日祝ってあげられて、もうさ、ラブラブ。
青木
幸せそうで何より。
(そこへ倉地と藤原やってくる。)
倉地
何?また合コンの話?
青木
阿部のノロケ話に、いらついてたとこ。
阿部
え、お前いらついてたの!?
倉地
幸せそうで何よりじゃない。
阿部
え?今度は何を知ってる?
藤原
最近のことはあまり。
倉地
六本木の「ロブション」だって?
藤原
三ツ星ですね!
倉地
奮発したねー。
(うなだれる阿部)
阿部
つつぬけじゃん!
倉地
それよりさ、例の新商品すっごい売れてるらしいわね。
青木
営業的にも力入れてるし、広告部もずいぶん金かけて宣伝してるからな。
倉地
マニュアルのこと、問い合わせセンターにけっこう声寄せられてるらしいわよ~。
阿部
え、なんか不備?聞いてないけど。
倉地
わかりやすくて、見やすいって。
阿部
!
倉地
またうちの製品を買いたいって声が、たくさん寄せられてるらしいわよ。
藤原
もう、お母さんたちがすごく喜んでくださっているみたいで、SNSでも商品だけじゃなくマニュアルも話題になっているんですよ!
青木
良かったな。
阿部
なんか、すっげえうれしい。
(ちょっと涙ぐむ阿部。それを見つめ微笑み合う3人。)
藤原
あ、美樹さん!
阿部
え?
藤原
うそです。
阿部
おめー!
青木
なんか藤原ちゃん。だんだん倉地に似てきたよね。
藤原
うれしいです!
阿部
変わってるね。
倉地
何っ?
(笑い会う4人。休憩所ロング。)
終わり